しかしながら、矛盾や仕方なさを抱えることを肯定する論調が好きなので「ゆるさ」と「ストイック」をどう両立させるのだろうかと、本書を手に取りました。
要約
コロナ前後で世界は一変した。多様性重視で他者への干渉は躊躇され、指導はコストと見なされる。陰で努力できる人とできない人で二極化が進んでいる。その中で、成功を収めるには基盤を最大限に活用しながら独自性を発揮することが重要だ。ニッチな世界から活動を始め、試行回数を増やそう。変化に柔軟であろう。
感想
良いことも書かれているのですが第6章がものすごくイマイチで、読後感はあまり良くなかったです。詳細は後述します。脳科学的な記述が散見されるのも、樺沢紫苑さんの本のようなウケを狙いすぎている感じがして、私はやや苦手でした。。。
良かった部分
アンラーニング
ケチなので「アンラーニング」という言葉がイマイチ理解できていませんでした。せっかく学んだことを捨てるなんて勿体ない、知識は積み上げて行くものだ、と思っていました。
しかし著者が日々の情報源を変えることで、それまでなぜそんなことを気にしていたのだろう、と考えが変わったと書かれていました。
アンラーニングとはこれまでの価値観、固定観念から解放されよう、ということなのですね。その意味でもstudyingではなくlearningなのでしょうか。これまでの理解が誤っていたことを知りました。
自分の周りにいる5人の平均が自分
会社のキャリア研修でもこれを聞き、なるほどと思った部分でした。
この本ではそれを客観的にコントロールするために、「自分メンテナンス時間」として振り返りの時間を設け、理想の5人を考えることを推奨します。
たしかにいいかもしれません。先ほどの情報源を変える話もそうですが、何の価値観に侵されているのか、自分はどうありたいのかは、自分で手綱を握っておく必要があります。
レコメンドに流されるのではなく、レコメンドを客観視して、ああ私はこういう人だと思われているのか、こういう世界にいるのかとメタ認知したいところです。
アイディアにネタ切れが起きることがあっても、独自性は常に新しく発生し続ける
これも体験を通して、実感しているところです。卑近な例で申し訳ないのですが、X(twitter)を見ていても、以前にバズっていたような内容が再びバズっていたり、衆知の事実に思える内容が盛り上がっていたりします。
ブロガーやインフルエンサーの世界も約2年でプレイヤーが総入れ替えしているように感じています。少し見せ方を変えれば根っこは同じ内容、アイデアであっても新鮮さをもって受け止めてもらえるのですね。
35歳の壁
私のような年齢では少しドキッとする内容です。もう両手で数えられる残り時間でキャリアに大きく関わってくるのですね。昇進には運もあるとは思いますが、タイムリミットを噛み締めながら行動する必要があると、身が引き締まる思いでした。
あまり好きではなかった部分
第6章の二極化に関する記述には心底がっかりさせられました。国内外の選挙で見えた世論や所得・資産、インターネットのフィルターバブルによって二極化が進んでいるという事実はたしかに現前しています。しかしながら、人は人として我関せずという態度で良いのでしょう
か。
p.242に「このような状況では、『自分は自分、他人は他人』という寛容さを持って世界と関わり、黙々と自分のやるべきことに没頭する姿勢が重要になります。自分の活動に集中し、他人の主義や思想に干渉しないことで、無益な論争に消耗されることがなくなります。
」と書かれています。
p.257-259では「ここまでの話を踏まえて、これからの時代をどう生きればいいのか。」と太字にして大見得を切って、言葉は過剰に評価されているとして、メラビアンの法則を挙げながら視覚と聴覚を優先したYouTubeのようなコミュニケーションが推奨されます。
またOECDの調査を上げながら、日本人の8割の読解力が小学校高学年でとどまっていると紹介する。
最後に分断を乗り越えるために背景を想像する努力をしようと申し訳程度には書かれていますが、どうもエリート意識が透けて見えるように思います。
8割の衆愚な大衆には、言葉でコミュニケーションすることは諦めよう、わかりやすくしてあげよう。二極化で下層に落ちてしまう人々を理解してあげよう。
そんな主張に見えてしまいます。愚かな人々とは関わらずに、自分だけが心安らかに成功すればいいよね、そんなスタンスが感じられます。
もちろんそういう生き方もありだとは思います。それはそれでごく当たり前に幸せでしょう。しかしそれで良いのでしょうか?
せっかく前半で著者の貴重な経験から成功への秘訣を開示してくれているのに、この章があまりにも自己中心的で、社会との関わりへの諦めに見えてしまいます。
私は人間のしかたなさ、どうしようもない部分を「受け入れつつ」生きる方法を考えたいです。ただ分断はいけません、ということでも無いと思います。
何がイシューなのか丁寧に解決を考えるべきです。その意味で、この6章は何ももたらしていないと思います。社会を、人を、統計的にマクロに見すぎていて、目の前の「人」が想像されていない議論だと思います。

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