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2024/04/29

【要約&感想】『孤独と不安のレッスン』鴻上尚史

 東畑開人さんの『聞く技術聞いてもらう技術』の中で、「孤立」と「孤独」という言葉が出てきた。「孤独」についてはこの本が欠かせない。再読した。

本当の孤独とは

 孤独になることで自分が「本当は何をしたいのか?」「本当は何を考えているのか?」を知ろう。しかし部屋に一人でも、メールやチャットで盛り上がっている時は「本当の孤独」ではない。「本当の孤独」とは、自分とちゃんと対話することだ。まずは恥ずかしくない孤独を体験してみよう。浜辺でぼーっと考えるのは一人が様になる<個人的にはファミレスで作業するのもおすすめ。ソロ活>。

思い込みから逃れる

 「一人であること」が苦しいのではなく、「一人はみじめだ」という思い込みが苦しいのだ。『禁煙セラピー』という本の次の文章が紹介される。思い込みの力は大きい。

ニコチンが切れるとみんなイライラし始める。夜中、タバコがなくなると、みんな、もうどうしていいか分からなくなる。それはニコチンの禁断症状が強いからだと言われている。でも、寝ていてニコチンが切れたからといって目が醒めた人はいない。でも、コカインやLSDは、禁断症状で目が醒める。つまり、ニコチンの禁断症状は、じつは、とっても弱いものなんだ。ニコチンが切れても、目が醒めないんだから。じゃあ、何故、夜中にタバコが切れると絶望的な気持ちになるのか? それは、ニコチンの禁断症状は強いもんだという思い込みがあっただけなんだ。思い込みだから、それをやめれば、すむだけの話なんだ

深呼吸して体の重心を下に

 焦っている人は体の重心が上になり、腰が引け、頭や胸を突き出して動くという。一方で落ち着いた人は、どっしりと腰の辺りで動いている感じがする。丹田と呼ばれるおへそから握り拳ひとつ下の部分に集中してみよう。息を深く吸って、丹田あたりに入れると意識してみよう。

日本人と『世間』

 村八分という言葉があるように、日本社会において世間は絶対だった。しかし明治政府は国家を強くするために村落共同体の力を弱め、世間ではなく天皇が神だと設定した。このため『世間』の力は中途半端に壊れているが、日本人にとって世間は未だ神様であるから、みんなが「ラーメンが食べたい」というなら、カレーを食べたくても「わたしも」と言う。

 また世間様をなくしてしまうと、欧米人が「それは神が許さない」と言えばすむことを、ひとつひとつ自分の言葉ではなさなければいけなくなり、大変なエネルギーと時間がかかる。

『他者』と『他人』

 『他人』とは、受け入れる必要も気持ちもない関係のことだ。大好きで大嫌いで、別れようとして別れられなくてにっちもさっちもいかない関係は『他者』の関係になる。

 夜中の三時に歌を歌う隣人は、引っ越しを決めた時点で『他人』になる。しかし引っ越し費用がまったくなかったり、マンションを買った場合には、腹を括って本気で交渉しようと決めるだろう。このとき隣人は『他者』としてあなたの前に現れる。

 さまざまな理由から誰かを理解したい、理解しないといけないと思ったとき、その誰かは『他人』から『他者』になる。『他人』と『他者』の違いは、あなたの思いひとつなのだ。

 コミュニケイションをあきらめなければ『他人』は『他者』になる。やっかいな『他者』とどうつきあえるかが、その人が成熟しているかどうかのバロメーターになる。

『何も言わなくても分かってくれるもう一人の自分』

 『何も言わなくてもわかってくれるもう一人の自分』なぞ存在しない。愛した人も、家族も、親友も『他者』であり、プラスとマイナスの両方がある。甘やかされて育つと親は『何も言わなくても分かってくれるもう一人の自分』になるが、とりわけ進学・就職、恋愛・結婚のタイミングで『他者』であることに気づかされる。

不安になるのは自分に関心が向いているから

 不安になったときは、誰かに何かをあげようと考えよう。筆者はそれを「おみやげ」と呼んでいる。物でも、お話でも、笑顔でも、誰に何をあげようと考えるだけで、不安にフォーカスすることを自然にやめることができる。

『ありたい自分』

 『ありたい自分』が『今ある自分』に対して攻撃してくる。「僕は、作家の✕✕が好きで」と人前で言おうとすると、「そんな名前だしていいのか? バカだと思われないか? どうして、もっとカッコいい作家の名前を出さないんだよ。✕✕なんかダメじゃないか。どうして、〇〇を読んでないんだよ」と。

 『ありたい自分』に聞くのではなく、目の前の現実の相手に聞いてみよう。経営者としても優れていたジャイアント馬場さんの経営哲学はただひとつ「他人から聞いた話は、直接本人に確かめるまでは信じない」だったそうだ。

 また稀に、「ありたい自分」が「今ある自分」より下にいる人がいるという。「私なんかどうせダメだし、バカだし、ブスだし」と言っているのに、充分、魅力的で賢い人の場合だ。「自意識」が低すぎるのだ。

 この場合も、現実の人間と対話しながら、「今ある自分」と「ありたい自分」の位置関係を修正していくしかないという。小さな勝ち味を積み重ねることで、少しずつ「今ある自分」は自信を取り戻し、「ありたい自分」は小さくなるのだ。

「自信がないとやれないんなら、一生、やれないなあ」

 根拠のないものに、根拠を求めないと安心できない人は、どんなになっても不安に苦しめられるという。会う人すべてが、「君はプロとしてやっていける」と太鼓判を押すなんてことはありえない。もし、奇跡的に会う人すべてが「プロとしてやっていける」と言ったとして、デビュー作を見事な演技で飾れたとしても、「じゃあ、次の作品は、こんなにうまくいくだろうか?」という不安はつきまとう。

 常に不安を感じながらも、「クラスメイトはなんて言うだろう?」「プロの俳優さんはなんて言うだろう?」「プロの演出家さんは?」と、不安をエネルギーにして、ステップを進めることができれば、それは「前向きの不安」として肯定される。

有能なサラリーマン

<「有能なサラリーマンであり続けるためには、自分の欲望はじゃまなのです」この一文からは空虚な人として「有能な」が皮肉めいて聞こえる。一方で次の文章では、自と他が融和したあるべき姿に思えてくる。

「有能なサラリーマンは、常に、自分ではなく、相手が何を求めているのか、相手が何を言いたいのか、ということを考え続けるのです。そして、相手の欲望を満たすことに満足するようになるのです。そして、相手の欲望を満たすことに満足するようになるのです。」>

その他書き抜き

  • もともと、「うざい」という言葉には、人間関係を強制してくる相手に対する嫌悪感があると僕は感じます
  • 100点を目指すのではなく、67点の人生を認める
  • 人間は、見たいものしか見ない
  • あなたが出会う人は、あなたの水準と対応します
  • 友達ができればラッキーだけど、あわない人と無理に友達にならなくてもいい。一人でいてもそれは普通のこと
  • 「ああ、どうして、一回失敗したら、もう全部を投げるんだろう!? ここからどれくらいふんばるかが、人生じゃないかあああ!」
  • 「考えること」と「悩むこと」は違う
  • 仕事でうんと頭を使ったら、同じくらい体を使うのが理想です
  • あなたがおみやげを忘れても、許して、支えてくれる人を2人、持つことが目標です
  • 相手が素敵だからではなく、自分が孤独で淋しいから、多くの人は恋愛をするのです。それは人間として普通のことなのです
  • 連帯をもとめて孤立を恐れず/力及ばずして倒れることを辞さないが/力尽くさずして挫けることを拒否する
  • 一人っ子が増えていくことで、(略)『孤独と不安』のレッスンを受けるチャンスがぐっと減ってしまった
  • 人間関係は、学習していくものです。初めから、適切な距離が取れる人と下手な人がいるのではないのです。


2024/04/28

【要約&感想】『聞く技術 聞いてもらう技術』東畑開人

まえがき

 実は「聴く」よりも「聞く」ことのほうが難しい。「ちゃんときいてくれない」と言うとき、「聞いてくれない」であって、「聴いてくれない」ではない。言っていることをそのままに受け止めてもらうことが難しい。しかし話を聞けないのは話を聞いてもらえていないからだ。

聞く技術 小手先編

  1. 時間と場所を決めてもらう
  2. 眉毛にしゃべらせる
     反応はオーバーに
  3. 正直でいる
     ちょっと思っていることならオーバーに言っても問題ない。嘘になるなら黙っておこう
  4. 沈黙に強くなる
  5. 返事は遅く
  6. 7色の相づち
     7種ぐらいあると聞いている感が出るらしい。
     うーん、ふーん、なるほど、そっか、まじか、だね、たしかに
  7. 奥義オウム返し
  8. 気持ちと事実をセットに
     片方で語っていたら片方を尋ねる
  9. 「わからない」を使う
     「私だったらこう思いそうな気がするけど、なんであなたはそう思うの?」
  10. 傷つけない言葉を考えよう
  11. なにも思い浮かばないときは質問しよう
  12. また会おう
  13.  とはいえ、余裕があるときは小手先がなくても聞けている。余裕がないとき(相手との関係がギクシャクしているとき)は、「聞いてもらう」ことから始めよう。

    第1章 なぜ聞けなくなるのか

    政治とは本質的に孤独を伴う仕事なのだと思う。人々の対立する利害を調整しようとするならば、当然両方の側から「わかっていない」「ちゃんと聞いていない」と突き付けられる。だから、政治家は孤独に強くなくてはならない。シビアな場に一人で踏みとどまり、遠い他者の声を聞く力が必要なのだ。

    東畑開人『聞く技術聞いてもらう技術』p.51-52

     <大変に正鵠を射た文章だ。なにも政治家に限った話ではない。「社内政治」という言葉もあるように、誰しもが政治を行なっている。部署と部署、AさんとBさんの板挟み。対立している当事者どうしも、調停役のわたしも、みな孤独なのだ。>

     ここで精神分析家のウィニコットの「対象としての母親」と「環境としての母親」が紹介される。前者は頭に思い浮かべるひとりの人としての母親だが、後者は食事が用意されたり洗濯物が畳まれていたりすることで立ち現れてくる母親だ。母親に限らず、電力会社などアンサング・ヒーローのことだ。

     「環境としての母親」は失敗することで意識されるが、そのことで子どもは大人になれる。パーフェクトな母親だと、『千と千尋の神隠し』の「坊」になる。<失敗してもいいのだ。これは誰かを育てる立場にある者を勇気づける。>この話は「聞く」ことも普段は意識されず、失敗することで気づかれることに共通する。

     失敗が短期間のうちに解決されるなら問題はない。だが、それができないときは「聞く」しかない。聞くことは痛みを和らげる。

    みんな、心の中では、がんばらなきゃと思って生きているし、実際のところめちゃくちゃがんばって生きています。これ本当ですよ。

    東畑開人『聞く技術聞いてもらう技術』p.75

    第2章 孤立から孤独へ

     孤立しているとき「心の中に暴力的な他者」がいる。想像上の悪しき他者の「お前は迷惑だ」の声が吹き荒れている。

     <重要なのは「想像上の」ということだ。別の言い方をすれば「仮説」である。それは事実か?裏取りをしよう、というメッセージでも希望は見えてくるのではないだろうか>。

     一方で「孤独」は安定した現実が前提となっている。ホームレス支援でも「ハウジングファースト」という発想がある。

     解決には時間がかかる。そして同じ人の中でも複数の心が綱引きをしているのだ。

    聞いてもらう技術 小手先編

    ◯日常編(体を一緒に置いてみよう)

    1. 隣の席に座ろう
    2. トイレは一緒に
    3. 一緒に帰ろう
    4. Zoomで最後まで残ろう
    5. たき火を囲もう
    6. 単純作業を一緒にしよう
    7. 悪口を言ってみよう

    ◯緊急事態編(この技術を使っている人に協力しよう・声をかけよう)

    1. 早めにまわりに言っておこう
    2. ワケありげな顔をしよう
    3. トイレに頻繁に行こう
    4. 薬を飲み、健康診断の話をしよう
    5. 黒いマスクをしてみよう
    6. 遅刻して締切を破ろう

    第3章 聞くことのちから、心配のちから

     「聞く」ことはプロの心理士だけでなく、ごく普通の人も行なっている。しかし専門知に対して、「先輩の話」のような世間知は弱体化する時代にある。どちらが良いというものではない。世間知では理解ができないものを、専門知が名前を付けて(病名のように)、知識を与えてくれる。「ふつう」という世間知は包摂と肯定に使われるとき薬となる。

    ◯「ふつうそれはおかしいよ」「ふつうそんな言い方しないよ」
    ✕「それくらいふつうじゃない?」

    人生の不幸とか失敗とか、そういうものをなんとかやり過ごし、生き延びた話を、僕らは仲間内で交し合います。そうやって、物語ったり、物語られたりすることが、日々の心の支えになるのだ

    東畑開人『聞く技術聞いてもらう技術』p.173

     つながりのあるときの時間は治療的だが、つながりのないときの時間は破壊的だ。

    第4章 誰が聞くのか

     おせっかいに案外ひとは助けられます。「聞く技術」の本質は、「聞いてもらう技術」を使ってモジモジしている人に声をかけるところにあります。

    当事者であるときは話を聞いてもらい、第三者であるときは話を聞いてみる。立場は交互に入れ替わります。あるときには聞いてもらう側だったけど、別のときには聞く側になる。「聞いてもらう技術」を使うときもあれば、「聞いてもらう技術」を使っている人を見つけて「なにかあった?」と尋ねるときもある。「聞く」がそうやってグルグルと循環しているときにのみ、「社会」というものはかろうじて成り立つのではないでしょうか?

    東畑開人『聞く技術・聞いてもらう技術』p.234

    感想

     ああ美しいなあと。「循環」というのは学問のなかで惹かれたもののひとつであったと思い出された。対立するものを行ったり、来たり。矛盾のなかを自由に羽ばたいている感じ。素敵だ。

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